七色ライラック
世界に、まるで二人きりのような。
周りの人間なんて視界に入らないそんな空間の中で、ドクンドクンと波打つ心臓。
たった数秒の沈黙が、一時間にも二時間にも感じた。
「…わた、し…」
落ちる、鈴の音のような細く澄んだ声。
長いようで短いその沈黙を破ったのは、俺ではなく彼女の消えてしまいそうなほど小さな声で。
震える唇を懸命に動かす彼女。
色付く頬に目眩がする。
揺れる瞳に勘違いしてしまいそうになる。
目の前の儚いその姿を、今すぐ腕の中に抱き締めたい衝動が体の奥から沸き上がるけど。
それをぐっと耐えて彼女の言葉を待った。
そんな俺のなけなしの決意と理性は、彼女が発した一言によってあっという間に崩れ去ることになる。