七色ライラック
何時間にも感じる数秒間。
重なっていた視線は電車が発進することで自然と外れる。
すると彼は近くにいたワインレッドの髪の男の人(あ、生徒手帳を届けてくれた人だ)に小さく何かを伝えたかと思うと、恥ずかしそうに頬を掻いて。
そのまま短く言葉を交わしたあと、その足を私の方に向けた。
(へ…嘘!来る!?)
パニックになる私をよそに、彼の足は人の合間を潜り抜け真っ直ぐにこちらに向かってくる。
そしてピタリと私の前で立ち止まった。
その瞬間、周りの音が全て消えた気がした。
彼の姿をとらえた視界に他のものは映らない。
逸らすことの出来なかった目で彼を見つめる私。
彼の瞳と重なって、また視線が絡まった。