七色ライラック
「美桜!もう降りるよ!」
電車の動きが緩やかになって、今まで私の隣で黙っていた亜実ちゃんが声を上げる。
その言葉に慌てて彼から手を離した。
その瞬間、とてつもなく寂しく感じたのは私の我儘だろうか。
「あ、あの…!」
せっかく誘ってくれたのに。まだ返事をしていないのに。
そう思って彼の方を振り返ったとき
「これ!終わったら電話して!」
電車を降りる寸前、彼の伸ばした手が私の手を掴んで。
何か小さな紙切れを手のひらに握らせた。
プシュー
音をたてて扉が閉まり世界を隔てる。
そしてあっという間に電車はホームをすり抜けていった。
最後に見えた彼が優しく笑っていたのはきっと見間違えなんかじゃない。