七色ライラック
ふわり
(…いい匂い)
彼女が一歩を踏み出した瞬間、長い髪が揺れて俺の鼻を掠めた優しい匂い。
学校や電車で嗅ぐようなものとは違う。
何種類も香水が混ざったような、そんな匂いじゃないんだ。
ただ彼女に似合う優しい匂い。
どこかで嗅いだことがあるような気がする。
懐かしい感じのこの香り。
ジャスミンのような、少し違うような。
どこで嗅いだんだろうか。
そんなことを思いながら彼女が隣に来たことを確認した俺は、また足を動かし始める。
さっきよりもその速度を緩めて。
(ドキドキする)
隣を歩く彼女に緊張して思わず背筋が伸びる。
肩が触れそうで触れないこの距離にクラクラした。
「あの、ありがとうございます」