七色ライラック
バレないように慌てて口元を手で隠す俺。
不自然にならないようにさりげなく顔を背けてみるけど、どうしよう。
可愛すぎて隠せる自信がない。
何だろう。彼女がいつもより可愛い気がするんだけど。
この間まで俺はどうやって彼女と話していたんだっけ?
よく面と向かって話せたな、と過去の自分を少しだけ誉めてやりたくなった。
幸い彼女は前を向いて話しているから、今の俺の表情は見えていないようだ。
「嬉しかったんです。ああいうの、憧れてて…」
ベタですよね、と恥ずかしそうに笑う彼女。
首を傾げた瞬間、再び掠めたあの香りが俺の記憶を刺激した。
あぁ、この香りは。
(…ライラックだ…)