七色ライラック
聞き間違いなんかじゃない。
周りの騒音に消えてしまいそうな大きさの声だったけれど、確かにそこに在って。
驚いて顔を上げれば、いつのまにか着いていた駅に降りようとしている後ろ姿。
思わず声が出そうになった時、振り返った彼女と目が合った。
自然と緩む口元。
ドクンドクン
あぁ、やばい。
(すっげぇ、嬉しい)
彼女が偏見を持たないでいてくれたことが。
振り返ってくれたことが。
バクバク鳴っている心臓も熱い顔も、もう手遅れだと告げている。
好き、すき
「…スキ…」
喧騒に掻き消された本音。
それを隣に立っていた雪に聞かれていたなんて。俺はまだ知らない。
それは熱さを増しはじめた五月のある月曜のこと。