七色ライラック
だけど、その返事に彼が小さく表情を緩めたような気がした。
「あの…これ。電車で落としたみたいだったから」
そう言って彼が差しだしたのは、私が無くしたと思っていた学生証で。
予想外の物に目を丸くする。
彼がこれを持っているということは、どうやら行きの電車の中で落としてしまったらしい。
どうして今の今まで気付かなかったんだろうか。
しかもまさか彼が拾ってくれているなんて。
「あ、ありがとうございます…!」
慌ててそれを受け取れば"どういたしまして"とまた小さく笑ってくれた彼。
ドキン
(格好良い…っ)
朝、学生証を落とした自分を誉めてやりたいと思った。