七色ライラック
一歩一歩近づいて、立ち止まった彼女の目の前。
距離は四十センチくらいだろうか。
もしかしたらもっと短いかもしれない。
手を伸ばしたら触れられそうな距離。
今までこんなに近かったことは一度もなかった。
自分でも緊張してるのがわかる。
「あの…和泉…美桜さん、っすよね?」
意を決してそう聞けば、コクコクと大きく首を縦に振る彼女。
その動きが可愛くて可愛くて。
カァーッと顔が熱くなるのを感じた。
それを隠すように、必死に冷静を装って胸元のポケットに入れておいた生徒手帳を差し出す。
「あ、ありがとうございます…!」
それを見るや、彼女は慌てた様子で俺の手から生徒手帳を受け取った。
ふわりとした小さな笑顔とともに。