七色ライラック




(やっぱり…迷惑だった、かな)




考えなかったわけじゃない。

一度しか話したことのない相手から突然渡されるんだもの。

変に思って当然。


けれど気持ちが先走って作ってしまった。

昨日の彼の言葉が嬉しくて、調子にのってしまったんだ。


恥ずかしい。穴があったら今すぐ入りたいくらい恥ずかしい。


だんだんと沈黙にも耐えられなくなってきて。


時間にしたら数秒かもしれないけれど、私にはどうしようもなく長い時間に感じた。

無意識に視界が歪む。


あぁもう次の駅で降りて、もう一本後の電車に乗り換えようか。

この際遅刻しても構わない。


そう思い、差し出したままの手を下ろしかけたとき。




(…え…?)




ふと手の中の温もりが消えた。




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