七色ライラック
"彼"が呼んだ。
ただそれだけで、聞きなれたはずの名前が全く違うもののように聞こえる。
ズクッと疼く胸の奥。
「はっはい!」
込み上げてくる衝動を隠すように慌てて返事をすれば、その声は驚くくらい裏返ってしまった。
(恥ずかしい!)
一体朝から何回恥ずかしい行動をとればいいのだろう。
何故彼の前で印象がよくなる行動をとれないのだろうか。
羞恥心に苛まれどうしようもなくなった私は、ゆるゆると視線を落とし俯く。
すると
「……ハハッ」
何故か上から降ってきた彼の小さく笑う声。
ちらりと見上げれば眉を寄せながらもどこか楽しげに笑う彼がいた。
(わ…格好いい…)
眉を寄せても格好いいなんて、もはや犯罪の域だと思う。