七色ライラック
その点普段口数の少ない雪にはそういったことに関して二人以上の信頼があった。
そんな俺の心境など知るはずのない雪は当たり前のように俺の隣に座ると、手の中にあったクッキーの袋を覗き混んでくる。
「何これ、貰ったの?」
ラッピングされた袋の上品さは、作ったのがうちの女子生徒ではないと知らせるには十分だ。
雪もすぐに誰からのものかわかったんだろう。
「おう。昨日のお礼だって」
そう言いながら思い出すのは、反対側のドアから俺に向かって歩いてきた彼女の姿。
その姿に緊張しながらも、昨日の夜何度もシミュレーションした言葉を思い出し声をかければ控えめな挨拶が返ってきて。
それだけで、今日一日頑張れると密かに思っていたのに。