七色ライラック
ぎゅっときつく胸元の服を握ってみるけれど、その音が治まる様子はない。
必死に深呼吸を繰り返す私は周りから見たらとても滑稽なんだろうと思う。
でも今はそんなこと気にしていられないの。
(落ち着いて、落ち着いて)
自分に言い聞かせるよう何度も心のなかでその言葉を呟く。
それでもなお私の心臓は耳元にその音が響くくらい緊張していて、もう破裂寸前だ。
トントン
そんなとき、ふいに肩に感じた小さな振動。
それは目を瞑り呼吸を整えながら完全に自分の世界に入っていた私の意識を引き戻す。
その微かな振動に慌てて振り返れば、そこにいた人の姿に息が止まりそうになった。
「おはよ」
目の前には、小さく口元を上げた彼が立っていて。