Before under
存在しない者を法律で裁くことはできない。
この法律は、五年以上行方をくらませることに成功した者はどんな罪を犯しても良いと言っているようなものなのだ。
「この間は本当に御苦労だったな」
白く色を失った髪の中に未だ僅かな黒髪を残す老人は、ねぎらうように声をかける。
「僕は……まだまだ未熟です。『虚人(コジン)』となってもう一年も経つというのに、僕は人を殺すことに対する抵抗感を完全にはぬぐい切れていないのですから」
アイスブロンドの髪をした青年――――潤の右の頬にはうっすらと線が浮かびあがっており、微かに血がにじんでいた。彼の着ている黒いコートのポケットからは小型の銃が顔を出してしまっているが、本人は全く気付いていない。
本当に、まだまだ未熟なのだ。
戸籍を失った者は『虚人』と呼ばれ、その多くは殺人などの犯罪に手を染め、暗殺組織に所属する。潤もその一人だ。
プロの暗殺者は人を殺すという行為に対して何の抵抗もない。いちいちそんなことを気にしていては身がもたないからだ。
通常、暗殺者は標的に対して自らが暗殺者であることを悟られないようにするものなのだが――――これではすぐに暗殺者であるとバレてしまう。そうなれば、かなり厄介なことになりかねない。
「確かに君はまだまだ未熟だ。けれど、蕾はいつか必ず花開くものだよ」
「そうだといいのですが……」
老人の言葉に、潤は曖昧な笑みを浮かべた。
一見穏やかそうに見えるこの老人は、数多くの暗殺組織の中でもかなり有名な『Under』という組織のリーダー。そして、潤の上司でもある。
それにも関わらず、潤があまり緊張していないのはこの老人の纏う優しげな雰囲気のおかげだろう。
「大丈夫さ、君なら――――ところで、君にどうしても頼みたいことがあるのだが……」
「頼みたいこと、ですか?」
「君には誰かを傷つけることよりも誰かを護ることの方が向いているような気がするんだ……君は優しすぎるからな。君には、これを護ってもらいたい」
老人はそう言ってスーツの内ポケットから一枚の写真を取り出し、隣の席に座った潤に手渡す。
新たな仕事の内容に若干の不信感を覚えつつも、潤は受け取った写真をじっと見つめた――――
この法律は、五年以上行方をくらませることに成功した者はどんな罪を犯しても良いと言っているようなものなのだ。
「この間は本当に御苦労だったな」
白く色を失った髪の中に未だ僅かな黒髪を残す老人は、ねぎらうように声をかける。
「僕は……まだまだ未熟です。『虚人(コジン)』となってもう一年も経つというのに、僕は人を殺すことに対する抵抗感を完全にはぬぐい切れていないのですから」
アイスブロンドの髪をした青年――――潤の右の頬にはうっすらと線が浮かびあがっており、微かに血がにじんでいた。彼の着ている黒いコートのポケットからは小型の銃が顔を出してしまっているが、本人は全く気付いていない。
本当に、まだまだ未熟なのだ。
戸籍を失った者は『虚人』と呼ばれ、その多くは殺人などの犯罪に手を染め、暗殺組織に所属する。潤もその一人だ。
プロの暗殺者は人を殺すという行為に対して何の抵抗もない。いちいちそんなことを気にしていては身がもたないからだ。
通常、暗殺者は標的に対して自らが暗殺者であることを悟られないようにするものなのだが――――これではすぐに暗殺者であるとバレてしまう。そうなれば、かなり厄介なことになりかねない。
「確かに君はまだまだ未熟だ。けれど、蕾はいつか必ず花開くものだよ」
「そうだといいのですが……」
老人の言葉に、潤は曖昧な笑みを浮かべた。
一見穏やかそうに見えるこの老人は、数多くの暗殺組織の中でもかなり有名な『Under』という組織のリーダー。そして、潤の上司でもある。
それにも関わらず、潤があまり緊張していないのはこの老人の纏う優しげな雰囲気のおかげだろう。
「大丈夫さ、君なら――――ところで、君にどうしても頼みたいことがあるのだが……」
「頼みたいこと、ですか?」
「君には誰かを傷つけることよりも誰かを護ることの方が向いているような気がするんだ……君は優しすぎるからな。君には、これを護ってもらいたい」
老人はそう言ってスーツの内ポケットから一枚の写真を取り出し、隣の席に座った潤に手渡す。
新たな仕事の内容に若干の不信感を覚えつつも、潤は受け取った写真をじっと見つめた――――