Before under
第一章
不死者。
刃物で心臓を突き刺そうと首を折られようと絶対に死なない人間など、この世界に存在するのだろうか?
仮に存在していたとしてもそれを人間と呼ぶことは出来るのだろうか?
潤はそんな疑問を抱きながら本を閉じる。
『不死者』という短いタイトルのこの本で描かれているのは人間でもなく化け物でもない少女の話だ。
少女は初めに、崖から落ちて死んだ――――いや、死んだはずだった。
埋葬される直前に、どういうわけか彼女は息を吹き返したのだ。動きを止めていた心臓は再び動き出し、彼女は何事もなかったかのように起き上がった。
そして、彼女のことを気味悪がった何人かの人間は彼女を殺す。が、彼女はその度に蘇ってしまう。
こんな生き物が実際にいたとしたら、この世の中はどうなってしまうのだろうか――――?
潤は心の中で呟き、顔をあげる。
白い正方形をした部屋。その部屋は、酷く閑散としていた。
家具と呼べるようなものは何一つなく、窓も天井近くに小さいものが一つだけ。
潤はその部屋で一人、待っていた。
『3月26日午前10時に本部13階に来るように』という最低限の言葉だけでつづられた文章が携帯のメールで送られてきたのは、今から約一週間前のことだ。
暗殺組織『Under』の仕事のほとんどは暗殺なのだが――――潤は今回の仕事が暗殺でないことを知っている。組織のリーダーから先日、直接話を聞いていたからだ。
「皆川 潤<ミナガワ ジュン>ですね」
ギイイ、という不快な音を立てながら白い扉が開き、潤のものと同じ黒いコートを身に纏った長髪の青年が現れる。
彼の腰には、長い刀があった。
建物の地下1階から最上階まで、全てが『Under』のものであるとはいえ、武器を堂々と見せながら歩くというのはあまり良くない。
一般人にその姿を見られたらどうするんだ? と潤は心の中で呟いた。