吸血鬼は淫らな舞台を見る episode ι (エピソード・イオタ)
「えっ?……あの……記憶が少し戻ったのかもしれない」
シータに“舞台で君と会話したことは二人だけの秘密だよ。
あの女の人に話してはいけない”と言われたことを思い出し、慌てて嘘の言い訳をした。
「本当の名前は教えていたかしら……」
女は顎に手を当てて考え込む。
イオタには女を納得させることができるさらなる嘘が思い浮かばず、緊張で体が硬直していくのがわかった。
「まぁ、別にどうでもいいわ」
やや投げやりに導いた女の答えを、イオタはうんうんと、わかったように頷いて同意する。