吸血鬼は淫らな舞台を見る episode ι (エピソード・イオタ)
「かしこまりました」
『あなたの幸運がグラスからこぼれ落ちないことを祈る』
「ありがとうございます」
透明なフィルムに指でタッチすると、本のしおり程度の大きさに端末が縮小され、女はため息まじりにポケットにしまう。
「あぁ~ぁ、いちいちかったるいわねぇ~」
それまでとは態度を一変させ、だるそうに愚痴をこぼす。
淡々とした女の言葉を思い出し、整理すればするほど、聞かないほうが幸せだったかもしれないと感じた。