吸血鬼は淫らな舞台を見る   episode ι (エピソード・イオタ)


唇に痛みはなく、注射器を咬んで口を切ったケガはここへは持ち越していない。


状況だけが、セットとして表現されている。


ビィ~と開始のブザーが鳴ると、赤い幕が上がり始める。


最前列中央の観客席にシータがキョロキョロ首を振りながら座っている。


さらにふっくらとした卵型の顔は血色が良さそうだ。


「元気そうだね、シータ」


イオタがベッドから起き上がろうとすると、手首と足首を巻いている皮の拘束具がスルスルッと簡単に外れた。

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