吸血鬼は淫らな舞台を見る episode ι (エピソード・イオタ)
男の子は、いま、なぜ、自分がここにいるのかわからなかった。
生暖かい空気の流れ、異臭が鼻を衝き、足首がドロッとした粘り気のある汚い水に浸かっている。
「あ~」
声を出すと、そっくりな声が反響してきた。
男の子は目を凝らす。
辺りは真っ暗闇ではなく、僅かながら視界が確保できる薄闇。
壁を手で触れると石を単純に積み上げたものだとわかり、湿気で表面がツルツルとしている。
天井は半円状になって、石と石の間の隙間から弱い明かりがもれてきている。