吸血鬼は淫らな舞台を見る   episode ι (エピソード・イオタ)


得体の知れないモノ、怪物、化け物……声の主の正体を考えると、そんな答えしか出ず、焦りが上半身と下半身のバランスを崩し、男の子は転んだ。


最悪だ……。


濡れて重くなった体を汚水から引き上げ、再び疾走開始。


追ってくる飛沫の音や醜い声が聞こえてこなくなったことから、きっと「あ~」と自分が叫んだせいで得体の知れないモノが睡眠の邪魔をされ、ちょっと怒っただけかもしれないと男の子は都合よく脳で処理した。


道が二手に分かれ、右を選び、奥へと進んでいくと暗さが増してきていることに気づく。


それでも目が慣れて夜光化したのか、僅かな闇の濃淡を識別でき、不自由なく走ることができた。

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