吸血鬼は淫らな舞台を見る   episode ι (エピソード・イオタ)


血に飢えると生えてくる乱杭歯と、恐ろしく鋭利に伸びた鍵爪で引き裂いてきた。


世間を恐怖に陥れ、震撼させ、優越感に浸っていたアルファはある噂を耳にした。


普段のように暗闇に紛れ、獲物を待ち構えていたときだった。


人影が現れて後ろから羽交い絞めにすると、強烈な悪臭が嗅覚を刺激して咄嗟に手を放した。


アルファは美しい女しか襲わないことをこのとき誓った。


悪臭の素が振り向き『あ、あんた……きゅ……きゅう、吸血鬼か?』と尋ねてきた。


顔を見られたのですぐにでも鉤爪で切り刻んでやろうと思ったが、相手は顎に長い白髭を蓄えた老人だった。

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