ビール缶
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「和田さんその腕どうしたんですか」
水村まなみという名の女子社員にそう言われるまで俊明は左腕の青あざに気がつかなかった。袖をまくるとあざの面積が明らかになった。
「痛みますか」
「大丈夫」
水村まなみはそう言うと事務仕事に戻ったので俊明も自分の持ち場へ行った。自動車の修理工をしている俊明の今日の割り当てはライトバンの定期点検だった。

工具箱から六角レンチを取り出したあと、ふたたびあざを眺めた。毒々しい紫色になっており俊明はかつて知人からもらったことを忘れ、腐らせてしまったブドウを連想させた。俊明にはあざがいつできたか心当たりがあった。社員旅行の帰りだ。

3連休の2日間を利用して箱根へ行った。毎日会っている同僚達とだったが、いざ東京に帰って解散、と言われるとすこし寂しくなってしまい、皆で居酒屋に寄りビールをしこたま呑んだ。
おぼつかない足取りで帰宅するとそのままベッドへ向かった。着替えてパジャマになり、歯を磨く気にさえならなかった。その時だった。床に転がったビール缶に足を乗せると勢い良く缶は転がり派手な音とともに、俊明は背中一面を床にたたきつけた。
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