ビール缶
ついに俊明は百合が誰とトスカーナにいるのか尋ねなかった。別に半年前に別れている女房が男とトスカーナにいても構わないのだが、酒が好きでおっちょこちょいな失敗をするあたり、流石に元夫婦だと思った。
かつては俊明と百合も水村まなみと彼氏のようなカップルだった。30を過ぎたあたりから次第に話す量も減り、一緒にどこかへ行くこともなくなった。しかし俊明はどこの夫婦もこれ位は当然と思っていたし、お互いの誕生日にはプレゼントをあげ、会話しないということも無いのだから仲はいい方と思っていた。百合に三行半を見せられた時俊明はとても驚いた。
他に好きな人が出来た、というわけじゃなくてもう少し派手に人生楽しみたいのよ――。
ふたりに子供はいなかった。若いOL向けの雑誌の編集をしている百合は、常に流行を追いかけていた。自動車の修理工がしなくても良いことだ。そしてそういったギャップを楽しんでいたのにはずなのに、いつしか負担になったのだろうか。考えても考えてもわからなかった。
百合とは別れてから2回会ったがその度に着る服が派手になる印象をうけた。百合の言いたかったことが少しだけ理解した。