ビール缶
イタリアに引き換え自分はブドウ色のあざだった。トスカーナにはもっとみずみずしい色のブドウから作られたワインにあふれているのだろう。俊明は頭をぐしゃぐしゃとかこうとしたが昼に見た自分の後頭部を思い出し、ため息をついてから床についた。

翌日の午前中は最悪というほかなかった。新人のスタッフが点検を担当した4WDのウインカーが返車されたら壊れてた、というクレーマーの対処をし洗いざらい確認し最後にメーカーに問い合わせてみたところリコール対象車で、自分たちに落ち度は全くなかった。しかしクレーマーの中年女は悪びれもせず、もう二度とこんなところに頼まない、と言ってから去った。

すっかり意気消沈したところで声を掛けたのは水村まなみだった。
「和田さん、今日の帰りにご飯ふたりで行きませんか」
俊明はぎょっとした。女性から食事に誘われるなんてなんていつぶりだろうか。
「でも」
「行きましょうよ」
「彼氏の人に悪いよ」
「確かにそうなんですけど、でも」
水村まなみは少し困った顔をして続けた。
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