ビール缶
「最近和田さん元気なくてすごく心配なんです。いつもみんなの中心にいて、社員旅行の最後に飲み会企画したり、今日だってクレームの対処してくれたし、私の彼も<頼りになりそうな人だね>って言ってたし、サッカーのチームに例えれば、絶対うちの会社のキャプテンは和田さんだと思うんです。私なんてマネージャーくらいだと思うんですけど、やっぱり心配で」
俊明は水村まなみの顔を見つめる。丸々とした瞳に映っているのは間違いなく俊明だった。もし子供がいたら彼女くらいの年齢かもしれない。親子ほど歳の離れた部下にこれほど真剣に心配されるなら、あざと抜け毛とクレーム対処の中年の日常も決して悪いもんじゃない。
「ありがとう。心配かけて、すまなかった。でももう大丈夫」
そう言うと水村まなみも安心したようだった。

鼻歌をこらえながら自宅へ戻った。あり得ない、と自分で分かっていながらも、あのままもし食事に行ってたら、そのあと…と下世話なことを考える余裕すら出てきた。
家は変わらず散らかっていた。夕日のオレンジ色の日光が照らしている光景は芸術的と言えなくもなかった。
(………片づけるか………)
ポリ袋を探そうとゴミを掻き分ける。その瞬間右はビール缶に足をのせた。ひやりとしたがアルミはくしゃりと乾いた音をたて静かにつぶれた。
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