蝉時雨
やっと状況が飲み込めてきたところで
慌てて唇を離そうとすると、
後頭部に添えられた京介の手がそれを制した。
「‥‥‥‥‥っ‥ん‥‥」
再び押し付けられた唇に
さらに頭の中は混乱する。
静かな公園で自分の心臓の
鼓動だけが耳に響く。
思考回路はめちゃくちゃなのに
五感だけはやけに鋭くて、
鼻先をかすめる京介の香水の匂いに
少しだけ平静を取り戻した。
そして宙に舞う両手を静かに下ろすと
ゆっくりと目を閉じた。
初めてのキスは想像していたどれとも違って
味なんて全然わからなかった。
男の子のくせに、
京介のくせに柔らかい唇の感触に
想像以上にどきどきした。
京介から見たら私は、
鼻息荒かったかもしれないし
あまりの緊張で変に力んで
唇までぶるぶる震えて、
笑っちゃうくらいぎこちなかったんだろう。
でも、何でだろう。
京介はこれが初めてじゃないのに、
ぎこちなさなんて全然なくて
慣れたように私を引き寄せたのに、
添えられた手の力強さとは裏腹に
優しく押しあてられた唇は
微かに震えていた気がした。