蝉時雨




「何?どうしたの、山ちゃん」

「うん。瀬戸内ならちょうどいいな」

と私の質問には答えず、
山ちゃんは一人納得して
がさがさと机の上の本棚をあさり始めた。






「‥‥‥あったあった。
瀬戸内、はい、これ」

「‥‥‥‥?」

上機嫌な山ちゃんは、
私が手に握った冊子の上にもう一冊
同じ冊子を重ねた。





「え?!ちょっと!!
なんでもう一冊?
こんなに数学解くの無理だよ!!
山ちゃんの鬼~!!!」

そう言って必死に泣き付く私を見て
山ちゃんはがははと豪快に笑う。






「はははっ!!
それもいいなあ!!
けど残念だが今渡したのは
瀬戸内の分じゃないぞ」

「えっ?じゃあ誰の‥‥」

「今渡した冊子は小宮の分」

「小宮って‥‥あぁ、京介のこと?!」

普段京介のことを苗字で呼ぶことがないので、
誰のことだか理解するのに
少し時間がかかってしまった。




< 128 / 225 >

この作品をシェア

pagetop