蝉時雨
「何?どうしたの、山ちゃん」
「うん。瀬戸内ならちょうどいいな」
と私の質問には答えず、
山ちゃんは一人納得して
がさがさと机の上の本棚をあさり始めた。
「‥‥‥あったあった。
瀬戸内、はい、これ」
「‥‥‥‥?」
上機嫌な山ちゃんは、
私が手に握った冊子の上にもう一冊
同じ冊子を重ねた。
「え?!ちょっと!!
なんでもう一冊?
こんなに数学解くの無理だよ!!
山ちゃんの鬼~!!!」
そう言って必死に泣き付く私を見て
山ちゃんはがははと豪快に笑う。
「はははっ!!
それもいいなあ!!
けど残念だが今渡したのは
瀬戸内の分じゃないぞ」
「えっ?じゃあ誰の‥‥」
「今渡した冊子は小宮の分」
「小宮って‥‥あぁ、京介のこと?!」
普段京介のことを苗字で呼ぶことがないので、
誰のことだか理解するのに
少し時間がかかってしまった。