蝉時雨
「兄貴のことしか頭にないくせに
あんなことすんじゃねーよ!!
傷ついた顔すんなよ!!」
「‥‥あ‥」
何も言い返せなくて、
視線は交わったまま沈黙が流れる。
こんなに感情を露にする京介を見るのは
初めてで、戸惑うのと同時に
なぜかすごく切なくなる。
「‥‥‥‥なんで兄貴なんだよ」
「‥‥‥え‥」
「なんで俺じゃねーんだよ!!!」
「―――っ!!!」
まっすぐに私を見つめる瞳。
痛いほど伝わってくる京介の気持ちに、
体中の全神経が麻痺したように
感覚を失っていく。
「‥‥‥俺のこと好きになれよ」
まるで自分のじゃないみたいに
動きを止めた体に、
どくんと一回大きく跳ねた
心臓の音だけがはっきりと響いた。