蝉時雨




言葉を濁す私にママが首をかしげる。



「何よ~?
京ちゃんと喧嘩でもしたの?」

「喧嘩っていうか‥‥
そういうのじゃないもん‥‥」


涼ちゃんとじゃなくて
京介と何かあったと予想する辺り
やっぱりママには菜々子のことは
全てお見通しなのかなと思う。






「菜々子、あんたねー
京ちゃんも涼ちゃんも優しいからって
あまりわがまま言ったらダメよ」

「‥‥‥別に菜々子
そんなことしてないもん」


ママの発言に不機嫌に唇を尖らせる。
そんな私におかまいなしで
事情を全て察知したかのように
ママは話し続ける。






「変な意地張ったり考え込んだりする前に
素直に謝ってらっしゃい」

「‥‥‥‥‥」







意地――‥‥‥






答えが決まってないんじゃない。
迷ってるのはその答え方。

“京介を傷つけない”答え方。






でも“京介を傷つけたくない”
なんてそんなの、
これ以上悪者になりたくないだけの
自分のことしか考えてない
菜々子の勝手な言い訳だ。


どんなに取り繕ってみたって
京介を傷つけてしまった事実は変わらない。



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