蝉時雨
「じゃあ、菜々子また後でくるね。
忙しいとこを引き留めちゃってごめんなさい」
「‥‥‥そうだ。菜奈ちゃん」
そう言って軽く頭を下げ
来た道を引き返そうとした時、
典子おばちゃんが何か思いついたように
私の名前を呼んだ。
「?なあに?」
「今からおばちゃん、
ちょっと出かけないといけないんだけど
お留守番頼まれてくれないかしら」
「え?でも‥‥」
普段から迷惑をかけっぱなしなのに
菜々子の都合で振り回すわけにはいかない。
それにいくら長い付き合いだからって、
他人である菜々子が留守の家に
あがりこむなんて失礼すぎる。
菜々子は周りの人達を振り回してばっかりだ。
返事を躊躇っていると
典子おばちゃんは続けた。