蝉時雨
「京介ったら鍵持っていかなかったのよ。
今、涼太もでかけちゃってるから
菜奈ちゃんが私が帰ってくるまで
いてくれるとすごく助かるのよ」
「‥‥‥‥」
典子おばちゃんは優しいから
きっと菜々子に気をつかってくれてる。
「無理にとは言わないけど、
‥‥頼まれてくれないかしら?」
「‥‥もちろん!菜々子でよければ!」
これ以上おばちゃんに気を遣わせまいと
笑顔を作って、明るく返事をした。
そんな菜々子を見て、
おばちゃんは優しい笑顔を浮かべると
少しだけ膝を曲げて
菜々子と目線の高さを合わせる。
「ねぇ、菜奈ちゃん」
「‥‥‥?」
「涼太の結婚が決まったり
圭織ちゃんがやって来たり。
驚くことがたくさんあったわよね」
典子おばちゃんが
優しい声で、菜々子にゆっくりと
言い聞かせるように話す。
「でもね、涼太も言った通り
私達は菜奈ちゃんのこと
ほんとに娘のように思ってるのよ。
ほら、家にはむさ苦しい男しか
いないじゃない?」
「‥‥‥‥‥‥」
「だからね、遠慮なんてしなくていいのよ。
これからもずっと菜奈ちゃんは
私のかわいい娘なんだから」
そう言って、
にっこりと典子おばちゃんが笑う。
その言葉が嬉しくて思わず
涙ぐんでしまった。
菜々子のつまらない不安なんて
全部お見通しなんだ。
ママや典子おばちゃんには
やっぱり敵わない。