蝉時雨
何も変わらない。
あの頃も今も。
そしてこの先も。
何も変わらないはずだった。
「‥‥‥変わってないのは菜々子だけか」
そうため息混じりに小さく笑うと
またゆっくりとベッドに体を沈めた。
菜々子はいつも
自分の気持ちだけで突っ走って
周りが見えなくなる。
いつも守られてばかりで
いろいろな人を、人の気持ちを
振り回してばっかりだ。
こんな自分が
ひどく子供っぽく感じて嫌になる。
「‥‥‥京介の匂いがする」
顔をうずめた柔らかなタオルケットから
香る京介の香りに不思議と安心感を覚える。
京介はいつから菜々子のことが
好きだったんだろう。
涼ちゃんばっかりの菜々子のこと
どんな気持ちで見ていたんだろう。
あの時、どんな気持ちで
私にキスしたんだろう。
そんなことをぼんやりと思いながら
私はゆっくり目を閉じた。