蝉時雨
「今回の帰省だって
俺の都合優先する形になったんだけどさ。
大変なのは自分の方なのに
あいつ、俺のことばっかり気にかけてんの」
目を細めて笑う涼ちゃん。
やだよ。
やめて。
そんな話、聞きたかったわけじゃない。
「いつだって自分のことは二の次で
他人のことばかり優先しちゃうからさ。
せめて俺が誰よりも気づかってやろう
って思うんだ」
「‥‥‥‥‥‥‥」
そう言いながら涼ちゃんは
まっすぐな目をして、
穏やかな表情で微笑んだ。
その瞳に菜々子は写ってない。
違う。
最初から涼ちゃんは
菜々子のことなんて見てないんだ。