蝉時雨


「今回の帰省だって
俺の都合優先する形になったんだけどさ。
大変なのは自分の方なのに
あいつ、俺のことばっかり気にかけてんの」


目を細めて笑う涼ちゃん。







やだよ。


やめて。


そんな話、聞きたかったわけじゃない。





「いつだって自分のことは二の次で
他人のことばかり優先しちゃうからさ。
せめて俺が誰よりも気づかってやろう
って思うんだ」

「‥‥‥‥‥‥‥」





そう言いながら涼ちゃんは
まっすぐな目をして、
穏やかな表情で微笑んだ。

その瞳に菜々子は写ってない。






違う。



最初から涼ちゃんは
菜々子のことなんて見てないんだ。





< 185 / 225 >

この作品をシェア

pagetop