蝉時雨
自分のことより周りのことを
優先できる圭織。
それに比べていつだって
自分の気持ちばかりな菜々子。
「‥‥けど、だめだな!
大事にしたいのに
上手く甘えさせてやれない。
あーいう言い方しかできない。
もっと上手く言ってやりたいんだけど」
困ったように目尻を下げながら、
はにかむように笑って
涼ちゃんは照れくさそうに
がしがしと頭をかいた。
汚い感情が全身を支配する。
涼ちゃんが見てるのは、
涼ちゃんが好きなのは、
菜々子とは正反対の人。
なんでそんな顔して笑うの?
なんでそんなこと菜々子に言うの?
ねぇ、なんで
なんで菜々子じゃないの?