蝉時雨
“菜々子は関係ないよ”
体を揺さぶるように鳴る鼓動とともに
さっきの涼ちゃんの言葉が
何度も何度もこだまする。
いつまでも子供っぽい
菜々子になんて関係ない。
涼ちゃんにとって
菜々子は特別じゃないから関係ない 。
絡めた腕からすり抜けていった
涼ちゃんのぬくもり
圭織にキスする涼ちゃん
圭織を抱きしめる涼ちゃん
見たことない笑顔で笑う涼ちゃん
受け入れたくなくて
見ないようにしていた現実が
頭のなかを駆け巡る。
なんで
なんで
汚い感情がどんどん沸いてくる。
胸のなかで大きくなっていく
渦を巻いた嫌な感情に
飲み込まれそうで、
抑えきれなくて、
握り締めた拳が震えた。