蝉時雨
「‥‥‥っと。
ごめんごめん。なんか語っちゃったな。
こんなこと言われてもわかんないよな」
黙ったままの菜々子に気づいて
はぐらかすように涼ちゃんが笑った。
そして自分の分のグラスを持って
私の座る和室へと向かう。
―――“菜々子には、わからない”?
涼ちゃんの言葉に反応して
警告音のようにどくどくと心臓が鳴る。
「なんで喧嘩になったのかって
聞かれたのに、答えになってないな」
涼ちゃんは恥ずかしいのか
照れくさそうに笑っている。
だめだ。
涼ちゃんのこと、
困らせたくない。
子供だって思われたくない。
それなのに自分の感情が
抑えきれなくて今にも爆発しそうだ。