蝉時雨


そんなことなんて知る由もなく
涼ちゃんは続ける。




「んー、まあ、あれだよ。
いい歳した大人にも
いろいろあるんですよ」



そうはぐらかすように
わざと改まった口調で言うと、
涼ちゃんは積みあげた雑誌の束を
少しずらすと、
グラスをテーブルに置きながら
私の隣にしゃがんだ。






―――“大人にも”





いやだ





やめて





やめて









そして涼ちゃんは
菜々子の頭をくしゃっと撫でると
にかっと太陽みたいな顔で笑って、
菜々子の大好きな顔で笑って、言った。







「まあ、つまり!
菜々子とは何の関係もないってこと!
だから何も気にしなくていーの!」









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