蝉時雨
“菜々子にはわからない”
なんで
“いい歳した大人にも”
なんで
――――“菜々子には、関係ない”
どくん、と心臓が重い脈を打って
涼ちゃんの言葉が強く響いた瞬間、
頭の中でプツンと何かが切れる音がした。
それと同時に私の頭を撫でていた手を
思いっきり振り払う。
腰をつこうとしていた涼ちゃんは
体勢を崩して、
そこに覆い被さるように体を移動する。
だけど勢いでうまく体勢が保てず、
そんな私を支えようとした涼ちゃんに、
抱き抱えられるようにして倒れこんだ。
倒れた瞬間、
組み敷いた涼ちゃんの顎に
ほんのすこし唇を掠めるようにして
私の唇が触れた。