蝉時雨
テーブルの上に広げた問題集に
呪文のような数式が並ぶ。
いつもなら見るだけで吐き気がするけど
今日は嫌悪感を抱くことなく向き合っている。
だって
私が今悩んでいることに比べたら
数式を解くことの方がよっぽど簡単だ。
でもただ嫌悪感が薄れただけであって
解けるようになったわけじゃない。
問題集はずっと同じページのまま。
かれこれもう同じ問題と
20分もにらめっこしたまま進めないでいる。
「はぁ‥‥‥」
進展しない状況とうだるような暑さに
小さくため息をついて
ソファーにもたれて天井を仰いだ。
めまぐるしく変わる状況に
追われる菜々子をよそに、
今日もあの庭先の桜の木からは
いっそう忙しい鳴き声が響いている。