蝉時雨
「菜々子ー?」
玄関先からママの足音が
リビングに近づいてくる。
「菜々子‥‥って、ちょっと!
珍しく勉強してると思ったら
もうそんな調子~?」
「んー」
「まったく‥‥。
まだ始めて一時間も経ってないじゃないの」
「だってわかんないんだもん」
だらけた体勢のまま
やる気のない返事を返すと、
そんな私の姿を見てママが落胆の声をあげた。
「ほら、しゃきっとしなさい!
菜々子にお客さんよ」
「いてっ」
ペチンとはたかれたおでこを抑えながら
もたれていた背中を起こして座り直す。
「お客さん?誰‥‥‥」
そう言いかけた途中で
縁側の方に人の気配を感じ、
視線を移した。
「あっ」
視線の先の人物に、
思わず短く声をあげる。
「京ちゃん、来てるわよ」
ママの言葉に合わせて
京介が小さく頭を下げた。