蝉時雨





「菜々子ー?」

玄関先からママの足音が
リビングに近づいてくる。







「菜々子‥‥って、ちょっと!
珍しく勉強してると思ったら
もうそんな調子~?」

「んー」

「まったく‥‥。
まだ始めて一時間も経ってないじゃないの」

「だってわかんないんだもん」



だらけた体勢のまま
やる気のない返事を返すと、
そんな私の姿を見てママが落胆の声をあげた。







「ほら、しゃきっとしなさい!
菜々子にお客さんよ」

「いてっ」

ペチンとはたかれたおでこを抑えながら
もたれていた背中を起こして座り直す。






「お客さん?誰‥‥‥」

そう言いかけた途中で
縁側の方に人の気配を感じ、
視線を移した。







「あっ」





視線の先の人物に、
思わず短く声をあげる。

















「京ちゃん、来てるわよ」


ママの言葉に合わせて
京介が小さく頭を下げた。







< 199 / 225 >

この作品をシェア

pagetop