蝉時雨
「じゃあ、俺帰るわ」
グラスの麦茶を一気に飲み干す。
「おばさんにお礼言っておいて」
「あ、うん」
そう言って立ち上がった京介が
「あ」、と思い出したように呟く。
「兄貴、明後日の朝出発だから」
いつもより少し低く響いた京介の声に
心臓がどくん、と鳴る。
涼ちゃんが帰っちゃう。
だけど
「あ‥‥そう、なんだ」
京介の視線を感じながら
下を向いたまま途切れ途切れに答える。
そんな私を、京介はしばらく見つめた。
そして小さくため息を吐く。