蝉時雨
でもだからと言って
2人で買いに行かせるのは嫌だ。
「涼ちゃんっ
じゃあ菜々子が一緒‥‥‥ぅえ!?」
そう言って涼ちゃんに
駆け寄ろうとしたところで、
ぐんとポシェットを引かれて
後ろに少しよろけた。
犯人はもちろんあいつ。
「ちょ‥‥っと!!京介!!」
「兄貴、車のキーかして。
俺達先に戻ってるから」
「えぇ!?何言って‥‥」
私の言葉は完全に無視して京介は続ける。
「彼女さんの荷物も持ってとくから
2人で行ってこいよ」
「ねぇ、ちょっと」
制止も虚しく、京介は手際よく
涼ちゃんから荷物を受け取る。
「ありがとう、京介くん」
「じゃあ頼むな。
はい、菜々子。車の鍵」
そして私は呆気なく鍵を手渡されて、
ポシェットをひっぱられ
ずるずると京介に連行されていく。
どんどん遠ざかる
楽しそうな涼ちゃんの横顔。
私を嘲笑うかのように
車の鍵についた変な顔のマスコットが
にやっとした笑みを浮かべてゆらゆら揺れる。