蝉時雨
「菜々子、京介!ありがとな」
戻ってきた涼ちゃんが私達に笑顔を向ける。
「ごめんね。ありがとう。
飲み物、車の中で渡すわね」
「おう。鍵は運転席に置いてる」
鍵の位置を確認すると
涼ちゃんが運転席に乗り込んだ。
そして当たり前に
圭織が助手席のドアに手をかける。
「あっ‥!そこは‥‥!」
菜々子の特等席。
でも私の制止の声は
ばたんっというドアの閉まる音に
虚しく掻き消されてしまった。
「あ~~~~っ!!!
菜々子が助手席なのに!!!」
「ほらな。
絶対そんなことだろうと思った」
「!?京介、あんたもしかして
最初からこれが目的‥‥」
「おーい。2人ともどうかした?」
勢いよく京介に向き直ると
タイミングよく涼ちゃんが
運転席から顔を出した。
「ーーーっ!!何でもないっ!!」
「?そっか。
ほら、暑いしはやく中入れ。出発するぞー」
「うん、すぐ行く」
渋々京介との言い合いを切り上げて
後部座席に向かう。
そんな私を見て京介が「残念でした」と
ペロッと舌をだして勝ち誇ったように笑った。