蝉時雨
なんだかすごくもやもやする。
涼ちゃんに彼女がいたことなんて
これまでにも何度もあったし、
涼ちゃん家に彼女が泊まっていく
ことだって珍しくなかった。
なのにどうして?
涼ちゃんが結婚って言ったから?
圭織がこれまでの人達とは
全然違うタイプだから?
嫉妬とは別に、さっきから感じている
この違和感は何なんだろう。
そんなことを考えながら
また小さくため息を吐く。
どうやら圭織の電話は終わったようで
前では2人が拓って人の話で
盛り上がっている。
菜々子が知らない場所の
菜々子の知らない誰かの話。
圭織が知ってる涼ちゃんの世界。
でも
菜々子は知らない涼ちゃんの世界。
そんなことを思いながら
再びボリュームの上げられたBGMを耳に、
後部座席にもたれて
楽しそうな2人をただぼんやりと見つめた。