蝉時雨

そして涼ちゃんがはにかんだ表情のまま
少し緊張したような、改まった声で言った。


「この人が橘 圭織さん。
俺の大事な人です」

「初めまして。
涼太さんとお付き合いさせていただいてます。
橘 圭織です。いきなりお邪魔してすみません」



圭織も緊張した声でそう言って
きれいな笑みを浮かべ礼儀正しく頭を下げた。

二人の緊張感が、
涼ちゃんの結婚が現実になることを
証明しているようで
どうにもならない現実を
突きつけられた気がした。




涼ちゃんが圭織に抱く大事って想いと、
菜々子に抱く大事って想い。
同じ言葉でもこんなにも重みが違うのは
なんでだろう。

菜々子には何が足りないのかな。






「いいのよ、そんなこと!
泊まってほしいって言ったのは
私達の方なんだし。
ちょっと涼太!!こんな美人さん、
どうやって捕まえたのよ!」

「あはは。捕まえたってなんだよ」

「ほんとにそうよ!!
涼ちゃん、やるじゃない!」





盛り上がるママ達に、
嬉しそうに照れている涼ちゃんと圭織。
全くおもしろくないこの状況に、
四人の会話に割りこむように話を切り出す 。




「ねぇ、ママ!メール見たでしょ」

「えぇ、見たわよ。
典ちゃんからも聞いたし」

「それならよかった!
今日は涼ちゃん家で夕飯ごちそうになるから」

「それはだめ。
菜々子は今から家に帰るのよ」




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