蝉時雨


私が来たときには、涼ちゃんは
もうすでに出かけた後だった。

典子おばちゃんによると、
圭織と一緒に友達のところに行ったらしい。






「涼ちゃん帰ってきて三日目なのに
全然一緒に過ごせてないよ」

「当たり前だろ。彼女といるんだし。
それにいつもと帰省の目的が違う」

「そうだけど!!
そうなんだけど、なんていうか‥‥」

ごにょごにょと語尾を濁しながら、
頭にのっけられた枕をぎゅっと抱き締めた。




「別に兄貴に女できるのなんて
これが初めてじゃねえだろ。
お前、今回異常じゃない?」

「異常って、なにが?」

「いつにも増して独占欲丸出し。
圭織さんに対して異様に対抗心持ってるだろ」

「!!それは‥‥っ」



痛いところを突かれて言葉につまる。
京介はこういうところ変に鋭い。
京介の言う通りだ。
自分でも今回は、異常だと思う。



「‥‥‥‥‥‥‥」

答えられないまま抱き抱えた枕に顔を埋めた。




どうしてだか涼ちゃんが
圭織と一緒にいると、
胸の中がもやもやして
すごく、すごく不安になる。
嫉妬とは別に、変な違和感がして
胸が騒つくんだ。



結婚相手とかそういうことを抜きで考えても
圭織は“今まで”とは違う気がする。
それがなんでかはわからないから
こんなにもやもやしているんだけど。




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