蝉時雨


「ただいまー‥‥って
なんかえらい散らかってるな」

部屋に入ってきた涼ちゃんは
今日はワックスで髪の毛がセットされていて
いつもと少し雰囲気が違った。
相変わらず、かっこいい。




「おかえり、涼ちゃん」

「お!菜々子。おはよー」

涼ちゃんに続いて圭織も
「菜々子ちゃんおはよ」と
笑顔で声をかけてきたけど、
私はちょっと素っ気なく返した。






「何、探し物?」

「うん。浴衣探してるんだって。
今日、天神さまだから」

「ああ、なるほどね!!
さっき隆が言ってたのはそれか」

散らかった箱に目を通して
納得したように涼ちゃんが頷く。





「涼ちゃんも行く?」

期待を込めて訊ねてみる。
この際圭織と三人でもいいや。




「うん。さっき友達に誘われて
五人くらいで行く予定」

「ええっ、友達と?!」

返ってきた言葉に肩を落とす。
友達と行くんじゃ
一緒に誘ってもらうのは難しい。





「そっか‥‥。
菜々子も涼ちゃんと行きたかったな。
涼ちゃんが祭りの日にこっちいるのなんて
久しぶりだし‥‥」

「そういえばそうだな」

すっかり気落ちした私に気づいた涼ちゃんが
少し困ったように眉尻をさげて笑う。


「ごめんな」

「いいよ。しょうがないもん」

そう言いながらもふてくされている私の頭を
涼ちゃんがいつものように撫でた。




ほんと私ってガキっぽい。
きっと京介はまた呆れ顔して
こっちを見てるんだろう。



分かってる。
ちゃんと分かっているのに、
口を吐いて出るのはいつだって
自分勝手で子供っぽい言葉ばかり。

自分自身に嫌気がさしてさらに落ち込む。






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