愛し方を知らない少女の歪んだ愛
わたしはそんな有希を見下ろして、呟いた。

「全部を預けたって……大袈裟な」

絶対に恋だけで終わらせない、なんてお兄ちゃんが言ったのだろうか。
わたしはその言葉に引っ掛かるものを感じた。

脳裏に嫌な考えが過ぎる。
でも、いいや、けれど、まさか。

「……ねえ、まさか」

結婚するつもりじゃないよね。

口にするのは躊躇われた。
だからわたしは口を噤み、有希を軽蔑の眼差しで見た。

「……わたしは、そのつもりだよ」

だけど有希にはわたしの考えていることが分かっているらしく、腫れた目を擦りながらそう言った。

その途端わたしは、上から水をぶちまけられたような気分になった。
体の節々が痛い。冷たい。

「なによ……それ。自分が何歳だと思っているの」
「十六歳だよ……? 祐斗がそう言ってくれたんだもん! 絶対に幸せにしてくれるって!」

有希はそう叫ぶと、教室を全速力で出て行ってしまった。
教室に残されたわたしは、クラスメートの痛い視線を受けながら、放心していた。

そんなのひどい。
泣きたいのはこっち。

お兄ちゃん。
どこにも行かないよね。
結婚なんてしないよね。

ねえ?
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