愛し方を知らない少女の歪んだ愛
「ああ、うん。すぐ行く」

そんなお兄ちゃんの声が聞こえて、はっとした。
わたしは窓から視線を離し、お兄ちゃんがいる方向へ目を向けた。

お兄ちゃんは焦り気味にコートに腕を通しているところだった。
どこかへ行くのであろうか。そうならば、なにがあったのだろう。

「お兄ちゃん、どうしたの?」
「ああ、ちょっと急用できてな」

お兄ちゃんはそう言うと玄関へ走っていってしまった。
わたしは複雑な気持ちで、靴を履いているお兄ちゃんに近寄る。

「ねえ、どこ行くの? 場所、教えてよ。なにかあったら、いけないじゃない」

普段ならこんなことは聞かなかった。
だけど、今日はなぜだか胸騒ぎがしたのだ。

お兄ちゃんが遠くに行ってしまうような気がして。
ただの勘に過ぎないけれど、わたしはとても心配だった。

「いいだろ、別に。小学生じゃあるまいし」
「お兄ちゃん!」

お兄ちゃんは冷たくそう言い放つと、外へ足早と出て行ってしまった。
わたしの叫びは虚しく、玄関へ漂っている。

「……少し、ひどいよ」

お兄ちゃんはわたしの想いに気が付いていない。
それでいい。
それでいいけど、やっぱり少し寂しいよ。
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