炭坑の子供たち(1)
 鍵を買うのが勿体ないと思った家は

ちょっと泊りがけで、親戚の家なんかに行く時には

玄関の戸や裏の雨戸、窓なんかを釘づけし

更には、隣り近所に声をかけて、出かけたものである。

そんな家の、寝る時に、家の中からかける鍵は

玄関の戸の上部とさんに穴を開けて、5寸釘を差込み、窓も同じ様にしていた。

そして、何処にも行かない様に、その5寸釘にはひもが付けられていた。

炭住街には、髪にぬる椿油を売るばあさんや

刑務所を出所したばかりの押し売りなど

様々な物売りがやって来たが

中でもやっかいなのが、托鉢の坊さんや巡礼で

特に苦手だったのが、母子の巡礼であり

表に立つ幼い女の子を連れた巡礼には、なかなか「御免」とは言えなかった。

すると、奥からおやじが大声で言った。

「御免っ」

その一言で、母子の巡礼は、しょんぼりと去って行った。

< 52 / 98 >

この作品をシェア

pagetop