Reminiscence
「それはたしかにそうだ」
旅人はあっさりと言った。
「だが私は誰も恨んでいない。ただ、気がかりがあるだけだ。それに、事件に関して私は嫌な感情をもっていない」
「そう……だったんですか」
フェンはあっけにとられて旅人の顔を見た。
てっきりその事件が旅人にとって一番いやな話題だと思って避けてきたのだが、そうではないと知って拍子抜けした気分だった。
「嫌な思い出というのは、まあ、学生時代の時だ。恨んでる奴はいないが嫌いな奴がいた。殺気は感情が実際よりも強くなってしまっていたのだろう。まあ、そのうち話すこともあるだろうからそんな顔するな」
旅人はからからと愉快そうに笑いながらフェンの頭を撫でた。
フェンはフェンで旅人の過去がかなり気になって仕方がなかったが、それを感づかれた恥ずかしさでされるがままにうつむいた。
< 207 / 392 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop